sample-sunrise/sunset

2011/08/12発行 A5/20P/表紙一色/コピー/価格200円/兎虎 R18

 

本文より抜粋

 

 っかしいな。どこにもいねえ。

 体調不良ならトイレに籠ってんのかも、と思ってみたけど、

バスルームに姿はなし。…え、ハンサムヒーローはトイレに行かないって? アホか。あいつだって腹くらい壊すんだぜ?

 …あー、分かった分かった。これ以上夢を壊す様なこと言わないって。

「それにしても、どこ行ったんだ。警備員が見てねえってことは、マンションからは出てないんだよな…。まさか、知り合いの部屋に行ってるとか…。いや、でも、部屋のロック…」

 独り言を言いながらバニーの部屋をうろつく。

「っつうか、バニーがご近所付き合いとか、考えただけで奇跡的すぎるだろ    っだッ!」

 俺は脳天に衝撃を受けて、つんのめった。

 何かが飛んで来たのだ。

「何だ…っ。て、えええええええええ    っ!?」

 俺は振り返って、その物体を目にした。仰天した。

 それは俺の頭にぶつかったあと、綺麗な弧を描いて、バニーの部屋にぽつんと一つだけ置かれているテーブルに着地した。

「☆■×◎☆△▽◇……!!!」

「なっ、なっ、な……」

 カセットテーブを早回しにして再生してるような、甲高い音を発して、そいつは、ぷんすかと怒っている…!

「バニーっ!? どうしたんだ。そんなに縮んで…っ!?」

 そこにいたのは、子猫ほどの大きさに縮んだ、バーナビー・ブルックス・Jrだった。しかも、かわいいウサ耳と尻尾がついている。服装はいつものライダースーツのままで…。


「するってぇと、なにか。朝、起きたら、すでに小さくなっていた、ってわけか」

 俺はテーブルに肘をついて、バーナビー(小)に顔を近づけて小声で喋る。心なしか顔の輪郭なんかはデフォルメされて、丸みを帯びているような気がするが、眼鏡も、手にはめているPDAも、良く出来た人形用の小物みたいな精巧さだ。当たり前か、本物だもんな。

「まったくバカバカしいですが、その通りです」

 バニーの声も、こうすれば聞き取れる。まぁ斎藤さんと会話するのと基本は同じだ。

「このオプションは…?」

 ちょい、とピンク色をした長ぁいお耳を摘んでみる。

「うわッ、あったけぇ…!」

 俺がビビって指を離すのと、バニーの蹴りが額に突き刺さるのとは、ほぼ同時。つぶらな瞳に青い光が点灯して、身も燐光のような輝きを放っている。…能力、発動しやがった。

「軽々しく触らないで下さい、この、すけべ!」

「わあ、何その蔑称べっしょう。おまえ、性格も変わってねえ?」

「僕はもともと、こういう性格ですっ。デリカシーがないのは相変わらずですねおじさん!」

「あー。悪かったって。その耳、血が通ってんのか。すげーなオイ、どういう理屈でこうなってんだろう」

「知りませんよ、ああ…もう、夢なら覚めてくれ……」

 バニーは能力を発動したまま、がっくりと膝をついた。

 何て言うか、このサイズだと可愛いな、おい。

「原因があるとしたら……アレか……」

「アレですかね……」

「でも、あの時、俺も一緒に光線浴びたよな…?」

「おじさんは、何ともないんですか?」

「うん。ぜんっぜん、これっぽっちも。むしろ絶好調」

「……ハァ……」

 バニーは項垂れて、のみかけだったらしいコーヒーのカップに寄り掛かって座り込んだ。


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「…おじさん! 虎徹さん!」

 呼ばれて俺は目を開けた。

「あり…バニー? せっかくの耳、もげちまったのか…?」

 逆光でよく見えねェんだけど、俺を揺すってるバニーの頭には、もふもふの耳がついてない気がする。だいたい、だだっ広い部屋に間接照明だけって、お前。ああ…それにしても、顔が近い。ってか、でかくね?

「……バニー! 戻ったのか!?」

 がば! とオレは起き上がった。

 …バニーの、手のひらの中で。

「………なんじゃ、こりゃあ!」

 俺は絶叫した。殉職手前の刑事みたいに。

「今度は、おじさんが縮んだんですよ。おかげさまで、僕は元のサイズに戻りましたけど」

 バニーは俺をチューリップの形にした両手で掬い上げて、顔の前まで持ち上げた。

「なかなか、お似合いですよ?」

 目を細めて、悪い顔で微笑む。

 ま、まさか。恐る恐る、俺は自分の頭に手を当てた。

「うわ。マジか……」

 毛皮の感触が…するぜ……。

「フッ…」

 バニーの勝ち誇った視線を辿ると、黄色くてシマシマ模様の入った、うねうねが目に入る。尻尾もかよ!

「日没と同時に、入れ替わりになったようですね」

 淡々と奴は言う。

「うわあー。嘘だろぉ〜。いい年したオッサンが耳と尻尾生やして、どんなニーズがあるってんだ」

「さあ。僕に聞かれても」

「うう、俺の帽子どこだあ。被れば隠せるだろ…」

「残念でした、ブブーッ」

 バニーは棒読みでクイズ番組の司会者のモノマネをする。

「帽子はここですよ。倒れた時に落ちたんでしょう」

 くるりくるり。俺の帽子を、バニーが片手で回す。

「お、俺のアイデンティティが…ッ」

 おじさんの成分は、半分以上、帽子でできています!

「これもあの怪光線の仕業かよ…」

「そのようですね。まだ司法局からは連絡ありませんけど」

「日没と日の出で入れ替わるって、スッゲェ昔の映画みたいだなオイ…。ルドガー・ハウアーかっこいいよなアレ…」

「そうですか? 不感症みたいであまり好きじゃないですね」

「偏見だって! SF映画の印象が強すぎんじゃね? ああ、バニー似てるもんな。近親憎悪って奴じゃねえ…うぶっ!」

 帽子で蓋された。

「嫌なこと言わないで下さい。まったく。全然似てませんよ」

「暗い暗い。おじさんこえーからやめてー」

「しばらくそうしてて下さい」

「ぎゃあー。バニーの鬼畜眼鏡ぇ!」

「誰が鬼畜ですか。口が悪いなあ、おじさんは」

 意外に軽い口調で呆れた声を出しながら、バニーの足音が遠ざかっていく。

 

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